会長挨拶

 第32軍壕は何故保存・公開しなければならないか。それは、その壕の中で沖縄戦の戦略、戦術が練られ、沖縄の運命を決定づけたからである。つまり、沖縄戦の実相を後世に正しく継承するという意味において、司令部壕の保存・公開は大きな意義がある。我々は、あの悲惨極まりない沖縄戦を決して忘れてはいけない。風化させてはいけない。水に流してはいけない。
 アブラハム・リンカーン大統領は、あの有名なゲティスバーグでの演説で、「87年前、我々の祖先は、人間はすべて平等であるという理念を掲げこの国を建設した」と建国の精神を宣言した。我々は、沖縄戦が終わって77年の今、第32軍壕の重要性を論じ、保存・公開を求めるのは、大本営の配下にあった第32軍牛島司令官、長参謀長あるいは八原高級参謀を礼賛するためではない。我々は第32軍壕を平和発信の砦にしたいし、人間性を守る砦にしたいからである。
 1996年大田昌秀県知事は、第32軍壕の保存・公開検討委員会を立ち上げ、私は、その会長を引き受けた。幾度か会議を重ね実際に壕の中に入り調査をし、計画書を作成して知事に提出した。司令部壕そのものを平和学習の場にすると同時に、県内外、国外にも平和を発信する場でなければならない、と答申したが、25年過ぎた現在いまだに実現されずにある。
 1999年、ワイツゼッカー元ドイツ大統領が名桜大学でテイーチ・イン(学内討論)をした。彼は、「過去に目を閉ざす者は現在に盲目である。そして同じ間違いを犯す。」と警告を発した。「沖縄は、東アジアの中心にあり、沖縄から平和を発信しなければならない。沖縄だからこそ説得力がある。」と 訴えた。
 かつて沖縄は、琉球王国という南海に浮かぶ蓬莱島すなわち楽園(パラダイス)であった。しかし、沖縄戦によってその楽園は失われた。我々はその失われた楽園を回復するために、沖縄戦の中枢をなす第32軍壕について学び、その保存・公開を実現し、恒久平和の構築に貢献したい。
 皆さんの一層のご理解とご支援を期待してやみません。

会長 瀬名波 榮喜

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